【公認心理師解説】強迫性障害の症状と認知行動療法による治療法を紹介
パニック障害

パニック障害は「治る」?「治らない?」~発症のメカニズムや症状、治療法・回復プロセスを紹介

パニック障害
公開日:2025.11.21

突然理由もなく、強い不安感を伴う動悸や呼吸苦が繰り返し起きて、生活に支障がでていませんか?ーーこうした不調は、もしかしたらパニック障害のサインかもしれません。

パニック障害は、ある日突然、強烈な不安や動悸、呼吸苦などを伴うパニック発作が繰り返し起こる身近な病気です。時に、「死んでしまうのではないか」と思うほどの発作がみられますが、検査をしても明らかな異常がみつからないことが多く、周囲からの理解が得られにくい面もあります。パニック障害は早期に気づいて治療を始めることで、症状の悪化や長期化を防ぎ、より早い回復につなげることができます。

本記事では、パニック障害の基礎知識から、診断、治療、回復にいたるプロセスまで、一般の方にも分かりやすく解説します。不安な気持ちに寄り添いながら、パニック障害の正しい知識と具体的な行動のヒントをお届けしますので、「もしかして…」と感じた方も、ぜひ最後までお読みください。

石飛信

医師

石飛信

国立大学医学部を卒業後、母校の精神科医局に入局。臨床医、研究職を経て、現在は単科精神科病院で勤務。医療ライターとして医療系記事の執筆も行っている。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医、子どものこころ専門医、医学博士。

パニック障害とは?まず知っておきたい基礎知識

パニック障害は「突然、理由なく強い不安に襲われて、動悸、めまい、呼吸苦などのパニック発作を何度も繰り返すこと」を特徴とする疾患です[1]。時に、死んでしまうのではないかという恐怖を覚えることもあります。

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パニック発作では、通常、症状が突然表れて10分以内にピークに達します。パニック障害に関する正しい知識を持ち、「自分や身近な人がパニック障害かもしれない」と感じたときは、早めに専門家に相談することが大切です。

パニック障害の原因

現時点では、パニック障害の「単一の明確な原因」は特定されていません。パニック障害の発症には、遺伝的・生物学的な要因と心理社会的ストレスなどが複合的に関与して発症するとされています。

中枢神経系では、不安症状にかかわる神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、GABAなど)のアンバランスが関与しているとされています。また、家庭環境や過去のトラウマ的経験、社会的孤立、大きな環境変化などがストレスとなり発症を誘発することもあります。

パニック障害の症状

症状の中心は「パニック発作」と呼ばれる突然の激しい不安・恐怖体験であり、めまい、動悸、息苦しさ、発汗、手足の震えやしびれ、脱力等を伴います。多くの場合、「また発作が起こるのでは」という”予期不安”も加わり、公共交通機関や群衆など「逃げにくい場所」を避ける“広場恐怖”を併発することもあります。

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診断基準はDSM-5やICD-10/11に準拠し、日本でも同様の診断が行われています。動悸などを主な症状とする心疾患や甲状腺疾患などの身体疾患を除外することも重要です。

パニック発作の診断基準(DSM-5-TR)

パニック障害は、精神疾患の診断基準の一つである「DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)」[2]において、不安症群の一つとして位置づけられています。その診断基準は、以下のA、B、Cの3つの要件を満たすこととされています。

A. 予期しないパニック発作が繰り返し起こること

パニック発作は突然生じ、強い恐怖または不快感が数分以内にピークに達し、以下の13症状のうち4つ以上が急激に現れる。

  • 動悸・心拍数の増加
  • 発汗
  • 身震い・震え
  • 息切れ・息苦しさ
  • 窒息感
  • 胸痛または胸部不快感
  • 吐き気・腹部不快感
  • めまい・ふらつき・気が遠くなる感覚
  • 寒気または熱感
  • 異常感覚(しびれなど)
  • 現実感消失・離人感
  • 制御を失う・「どうかなってしまう」恐怖
  • 死への恐怖

B. 発作の後、1か月以上にわたり以下の1つ以上を継続する

  • 追加の発作への持続的な心配または予期不安
  • 発作による意味・結果(制御喪失、発狂、心臓発作など)への心配
  • 発作を回避するための行動変化(例:外出回避、特定の場面の回避)

C. 発作や行動変化は、薬物や身体疾患、他の精神疾患によるものではない

身体疾患等の除外や、他の精神疾患との鑑別も必要です。診断は医師の問診や評価によって総合的に判断されます。

パニック障害の合併症

パニック障害では、以下のような精神疾患や身体疾患がしばしば同時にみられることが特徴です。

パニック障害以外の精神疾患

パニック障害の患者さんの約9割が、何らかの他の精神疾患も一緒に抱えていると報告されています。具体的には、うつ病、広場恐怖症、社交不安症、限局性恐怖症、全般性不安症、アルコール依存症、強迫症などがあげられます。

パニック障害がある人の約10〜65%は、生涯の間にうつ病を経験するといわれています。パニック障害をきっかけにうつ病を発症する人が多く、約3分の2はパニック障害とほぼ同時期か、その後うつ病が現れます。一方、残り3分の1は、うつ病がパニック障害の発症よりも前に現れます。

身体疾患

パニック障害の患者さんには、めまい・不整脈・甲状腺機能亢進症・喘息・慢性閉塞性肺疾患・過敏性腸症候群など、身体の不調や病気がみられることも多いです。このため、身体科の医師と協力し、体の病気との違いをしっかり見極めることが大切です。

以上のように、パニック障害は単独ではなく他の病気を合併することが非常に多く、心と体の両面に注意した治療が重要です。また、治療経過や回復のプロセスにも個人差が大きい病気です。

パニック障害の回復を妨げる要因は?

パニック障害は治るのか?

パニック障害は、適切な治療により「治る(=寛解する)」ことが可能な疾患です。適切な治療により症状が大幅に軽減し、ふだん通りの生活を取り戻すことができます。

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一方、治療の過程には個人差があり、回復を妨げるさまざまな要因も存在します。

回復を妨げる要因

パニック障害の回復を妨げる主な要因として、以下のような点が挙げられます。

  • 治療の中断:自己判断による服薬の中止、通院中断が再発や慢性化を招きやすいです。
  • 強いストレスや生活リズムの乱れ:職場や家庭内での慢性的なストレス、睡眠不足、過労などは再発リスクを高めます。
  • 誤った病気の理解や過度の不安回避行動:病気に対する誤解や「また発作が起きるのでは」という予期不安が症状悪化や社会的孤立に繋がります。
  • うつ病や他の精神疾患との合併:うつ病や他の不安障害が併存している場合、回復までの時間が延びることがあります。
  • 周囲の支援の不足:家庭や職場での理解・サポートが十分でない場合や、相談相手がいない場合も再発や治療難航の一因になります。

以上のようなポイントに注意しつつ、専門家との連携や周囲の支援を活用することが、より早い回復と再発防止につながります。

パニック障害の治療法・回復までのプロセス

パニック障害の治療は、薬物療法と認知行動療法を中心に行われます。薬物療法の中心は抗うつ薬や抗不安薬であり、パニック障害の要因の一つである脳内の神経伝達物質のバランスを整えます。

認知行動療法はエビデンスレベルの高い治療法であり、「発作=危険ではない」と理解する心理教育や、自身の思考・行動パターンを見直す認知再構成を行い、実生活の中で不安な場面に慣れる段階的な曝露療法等を組み合わせます。

パニック発作への正しい理解を深める

まず「パニック発作は生命に危険がない一時的な発作である」と正しく理解することで、不必要な恐怖や不安を和らげることが大切です。自分自身の発作パターンを記録する(発作日記など)ことも有用です。

専門医の治療を受ける

パニック障害の的確な診断を受けるために、できるだけ早く専門医(精神科・心療内科)に相談しましょう。特に、日常生活や社会生活に著しい支障が出ている場合は、早急な受診が必要です。

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出来るだけ早い回復に向けて、診断結果や治療方針を分かりやすく説明してくれる医師を見つけることが重要です。精神科専門医、精神保健指定医の資格の有無は、標準的な診断・治療ができるかどうかのひとつの判断材料となります。

パニック障害の治療は、医師と相談しながら薬物療法と認知行動療法を主体とした心理的治療が中心に行われます。薬物療法で症状の軽減を図りつつ、認知行動療法により症状悪化を招く思考・行動のクセに気づき、それを修正していく練習を段階的に進めます。

当メディアを運営するマインドバディでは、オンラインで認知行動療法を専門としたカウンセリングを提供しています。専門家と一緒に心理教育や認知再構成、曝露療法(エクスポージャー法)に取り組んでみたい方は詳細を確認してみてください。

生活習慣を整える

不規則な睡眠、過度のストレス、カフェイン・アルコールの過剰摂取などは、パニック発作のリスクを高めることがわかっています。十分な睡眠時間を確保し、カフェイン・アルコールは控えめにし、飲み物をカフェインレスのものに置き換えるなどの工夫をしましょう。ストレス発散やリラックスのために、趣味の時間を確保することも大切です。

生活習慣の見直しは、医学的な治療と並行して回復に重要な役割を担います。セルフケアを意識した環境づくりや、日常の小さな成功体験を積み重ねることが、再発予防や長期的な安定にも繋がります。

パニック発作への対処法を身につける

パニック発作が起きたとしても「大丈夫、コントロールできる」という自信を持てるように、自分なりの対処方法を医師と相談しながら積み重ねていきましょう。不安を感じる場面に徐々にチャレンジする「段階的曝露」を行うことで、さらに自信を取り戻していくことができます。

再発防止に努める

症状がほぼ軽快し、日常生活を取り戻せるようになったあとも、治療を急に止めず、医師や支援者と連携しながら再発予防への習慣を続けましょう。症状の振り返りや支援者との相談の場を持つことで、長期的な安定と安心感に繋がります。

まとめ

パニック障害は、誰にでも起こりうる身近な病気です。パニック発作を経験すると、「自分だけがおかしいのでは」と感じてしまうかもしれませんが、決してそうではありません。適切な治療やサポートを受けることで、多くの方が再び穏やかな生活を取り戻しています。

もし、「もしかして自分も当てはまるかも」と思ったときは、一人で抱え込まず、精神科や心療内科などの専門医に相談してください。早めの相談と適切なサポートが、回復への第一歩になります。焦らず、少しずつ、自分のペースで向き合っていきましょう。

参考文献
(1)パニック症診療ガイドライン(第1版)(2025):日本不安症学会・日本神経精神薬理学会
(2)Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition,Text Revision (DSM-5-TR).American Psychiatric Association Publishing, Washington, DC, pp 244.