認知行動療法は、うつ病やパニック障害などの心理的な問題の治療に効果的なアプローチです。認知行動療法にはさまざまな種類がありますが、基本的な考え方は共通しています。
今回は認知行動療法の3つの種類と代表的な手法についてご紹介します。
認知行動療法とは
まずは、認知行動療法の定義や効果などの基本的な知識についてご紹介します。
認知行動療法の定義と効果
認知行動療法とは、認知(考え方)と行動の両面にアプローチする心理療法です。私たちの思考パターンや行動は、心理的な問題や症状に影響を与えているという考え方がもとになっています。
認知行動療法の効果は科学的に実証されており、うつ病や不安障害、パニック障害などの心理的な問題に対して高い治療効果が示されてきました。
具体的には、次のような効果があげられます。
- ネガティブな思考パターンの修正
- ストレス対処能力の向上
- 自己効力感の増大
また、うつ病やパニック障害の治療では、薬物療法に比べて再発するケースが少ないといわれています[1]。
認知・感情・行動の関連性
認知行動療法の基本的な考え方は、認知(考え方)、感情、行動が相互に影響し合っているというものです。
ある出来事をどのように受け止めているのか、どのように考えているのかという点に注目します[2]。
日常生活のさまざまな出来事の中で「怒り」「不安」「悲しみ」といった感情が生まれるのはめずらしくありません。その後、どのような行動や身体反応につながっているかが重要です。
認知行動療法では、この3つの要素の関連性を理解し、それぞれに働きかけることで、心理的な問題の改善を図ります。
認知行動療法の代表的な種類3つ
認知行動療法には、以下のような3つの代表的な種類があります。それぞれの特徴について詳しくご紹介します。
- 行動療法
- 認知療法
- 第3世代認知行動療法
種類①:行動療法
行動療法は、1910年代にアメリカの心理学者ワトソンが提唱した行動主義心理学を基に始まりました。
観察可能な行動のみを「刺激」と「反応」の図式で理解する行動療法をベースとしており、認知行動療法の第一世代と呼ばれています。
行動療法の特徴は、科学的な方法を用いながら人間を理解し、変容しようとする点です。
観察できない内的な世界を治療の対象にはしていません。客観的に検証できる行動を実験的研究で観察し、人間の治療に応用することを目指しています[2]。
具体的な技法としては、トークンエコノミー法やエクスポージャー法、モデリングなどが代表的です。
種類②:認知療法
認知療法は1960年代にアメリカの精神科医ベックによって創始された心理療法です。人の考え方(認知)に焦点をあて、思考パターンの変容を目指します[3]。
うつ病の治療を対象とする心理療法として登場し、その後にパニック障害や不安障害などの心理的問題に適用されていきました。
たとえば、「自分は何をやってもダメだ」と考えがちな場合、その人独自の偏った考え方(認知)をより現実的で建設的な思考に修正します。ベックの認知再構成法やエリスの論理療法が代表的な技法です。
種類③:第3世代認知行動療法
第3世代認知行動療法は、従来の認知行動療法を発展させた新しいアプローチです。1990年代以降に登場し、それぞれに特徴的な視点を有したさまざまな心理療法が現場に取り入れられています[2]。
「受容」という意味を含むアクセプタンスの要素や、自己認識力につながるマインドフルネスの考え方を重視した療法です。「今、ここの気づき」を大切にし、それぞれの気づきや受容を目標としています。
アクセプタンス・コミットメント・セラピー(ACT)やマインドフルネス瞑想などの技法が代表的です。
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従来の認知行動療法と第3世代認知行動療法3つの違い
認知行動療法は時代とともに進化し、1990年代以降は第3世代と呼ばれる新しいアプローチが登場しました。両者には以下の3つの違いがあります。
- アプローチ
- 治療目標
- 適用症状
それぞれの違いについて詳しく見ていきましょう。
違い①:アプローチ
従来の認知行動療法と第3世代認知行動療法では、問題へのアプローチ方法が異なります。
従来の認知行動療法は、考え方(認知)や感情、行動に注目し、認知を変容させることが目標です。
たとえば、「自分は何をやってもダメだ」という考えを、「誰にでも失敗はある」のように建設的な思考に修正することを目指します。
一方で、第三世代認知行動療法の最大の特徴は考え方(認知)の変容を必ずしも重視しない点です。
変えるのが難しい問題をどのように扱うのか、症状とどのように付き合っていくのかに焦点があてられています[2]。
違い②:治療目標
従来の認知行動療法と第3世代認知行動療法では、治療目標にも違いがあります。
従来の認知行動療法の目標は、症状の軽減や行動の改善です。ネガティブな思考パターンを修正したり、行動を変容させたりすることで、うつや不安などの症状を和らげることを目指します。
これに対し、第3世代認知行動療法の目標は、症状の有無にかかわらず、価値のある人生を送ることです。
たとえば、アクセプタンス・コミットメント・セラピー(ACT)では、不快な体験に気づき距離をとることで、葛藤に費やされるエネルギーを価値にそった自己実現へ向けていきます。
違い③:適用症状
従来の認知行動療法と第3世代認知行動療法の違いの一つが適用される症状です。
従来の認知行動療法は、うつ病や不安障害、パニック障害などの心理的問題に対して高い効果が実証されています[1]。
とくに、症状が比較的明確で、極端なとらえ方や考え方を有している人に適用されてきました。
一方、第3世代認知行動療法は、より広範囲の問題に取り入れられています。慢性的な痛み、不安症などに効果があるといわれており、現在も多くの研究が重ねられている状況です[4]。
認知行動療法の種類ごとの代表的なやり方5つ
認知行動療法には、さまざまな種類と手法があります。ここでは、代表的な5つのやり方をご紹介します。
- エクスポージャー療法
- 認知再構成法
- 論理情動療法
- マインドフルネス瞑想
- アクセプタンス・コミットメント・セラピー(ACT)
それぞれの手法について、詳しく見ていきましょう。
手法①:エクスポージャー療法
エクスポージャー療法は行動療法をもとにした手法の一つで、不安症や恐怖症に対して適用されます[2]。
エクスポージャー療法でまず必要なことは、不安階層表と呼ばれるリストの準備です。恐怖や不安を感じる項目と程度を記載し、一番弱い刺激のものから徐々に刺激の強いものへと挑戦します。
エクスポージャー法ではクライエントが恐怖や不安を感じながらも、時間の経過によって自然に和らいでいく体験をすることが目標です。
手法②:認知再構成法
認知再構成法は、感情や行動と関連する偏った考え方に気づき、より適応的な考え方に組みなおしていくための手法です。
まず、自動思考と呼ばれる頭に瞬間的に浮かぶ考えやイメージを見つけます。次に、その思考を検証し、より現実的で建設的な考え方に置き換えることが目標です。
認知再構成法はコラム法とも呼ばれ、うつ病や不安障害の治療によく用いられる手法です。
手法③:論理情動療法
論理情動療法は、非合理的な信念に変化をもたらすことで悩みを和らげようとする手法です[2]。
ABCモデルと呼ばれる理論を用い、A(出来事)、B(信念)、C(結果)の関係から、起こっている問題を説明します。
たとえば、「常に完璧でなければならない」という信念を「ベストを尽くせばよい」に変更することで、過度なストレスや不安を軽減する方法です。
手法④:マインドフルネス瞑想
マインドフルネスは、うつ病の再発予防を目的として開発されました。自分の体験に対して判断や評価をせず、「いまこの瞬間において」注意を向けることであらわれる気づきを指します。
この考え方を実践する手法がマインドフルネス瞑想です。
具体的には、呼吸や身体感覚に注意を向け、頭に瞬間的に浮かぶ自動思考をただ観察します。
マインドフルネス瞑想では「なぜこんなにマイナス思考なんだろう」と評価をせず、「こんな考えが浮かんだ」と、ただ受け止め眺める姿勢が大切です。
手法⑤:アクセプタンス・コミットメント・セラピー(ACT)
ACTは、苦痛を伴う思考や感情をあるがままに受け入れつつ、価値ある人生を送ることを目指す手法です。
ACTでは、不快な感情があるがままに存在できる空間を作る「アクセプタンス」、今この瞬間に意識を向ける「マインドフルネス」などのスキルを学びます。
人は困難な課題に直面した際、「どこへ行く?」「誰に話す?」「逃げる?戦う?」などの選択が必要です。
ACTで身につけるスキルによって、不快な感情にとらわれることなく、価値に沿った行動を自ら選べるようになります。
【簡単】認知行動療法の種類別3つのセルフケア
次にご紹介するのは、認知行動療法の手法を日常生活で簡単に実践できるセルフケアです。
ここでは、3つの代表的なセルフケアについて説明します。
- リラクセーション
- コラム法
- 行動活性化
セルフケア①:リラクセーション
リラクセーションは、行動療法をもとにした、心身の緊張を和らげストレスを軽減する方法です。
代表的な方法として、呼吸法があります。呼吸法は、緊張をゆるめる効果がある腹式呼吸を行い、呼吸に意識を集中させる方法です。
まずは、1日に5分間、静かな場所で呼吸法を行うことから始めてみましょう。徐々に時間をのばしていくことで、ストレス耐性を高められます。
セルフケア②:コラム法
コラム法は認知再構成法とも呼ばれている方法です。先ほど説明したように、感情や行動につながる偏った考え方(認知)に気づき、建設的な思考に変容させていきます。
コラム法では取り上げる出来事を一つ決め、以下の項目をノートなどに記入しましょう。
出来事:プレゼンに失敗した。
感情:恥ずかしい 50 悔しい 50
自動思考:「自分はダメな人間だ」
根拠:「プレゼンをしている途中に笑われた」
反証:「全員が笑っていたわけではないし、何人かは熱心に質問してくれた」
新しい視点:自分はすべての面でダメではないし、できている部分もあった。
セルフケア③:行動活性化
行動活性化は、やりがいを感じられることや楽しめる行動をすることで、こころを元気にする方法です[5]。
まず、自分が楽しいと感じる活動や達成感を得られる行動を、日々の生活に組み込んでいきます。最初は小さな目標から始め、徐々に活動量を増やしていきましょう。
行動は大がかりなものではなく、日常生活で実行可能な活動で十分です。たとえば、「15分散歩する」「友人に電話をする」などの行動がちょうど良いでしょう。
認知行動療法の種類を理解してセルフで実践してみよう
うつ病やパニック障害などの心理的な問題に効果的なアプローチである認知行動療法。
認知行動療法の種類を理解し考え方を学べば、自宅でも簡単にセルフケアができます。まずは小さな一歩から始めてみませんか。
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参考文献
[1] 認知行動療法 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
[2] 「臨床心理学」丹野義彦ほか.有斐閣(2015)
[3] 認知療法 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
[4] アクセプタンス&コミットメントセラピーのこれから(日本心理学会)
[5] 15分でわかる認知行動変容アプローチ