
うつ病は薬なしで改善できる?非薬物療法の種類と効果的な取り組み方
うつ病の治療において「できれば精神科のお薬を使いたくない」と考える方は少なくないと思います。副作用に対する不安や長期服用への抵抗感、自分の力で回復したいという気持ちなど、理由はさまざまです。本記事では、薬物療法以外の治療方法や取り組むうえでの注意点を一般の方にも分かりやすく解説します。

医師
石飛信
国立大学医学部を卒業後、母校の精神科医局に入局。臨床医、研究職を経て、現在は単科精神科病院で勤務。医療ライターとして医療系記事の執筆も行っている。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医、子どものこころ専門医、医学博士。
薬物療法への不安や疑問について
現代のうつ病治療は、必要に応じてお薬の助けを借りてすすめていくことがスタンダードとなっています。一方で、診察場面では、患者さんから薬物療法に関してさまざまな不安や疑問の声を聞くこともよくあります。
例えば、薬には少なからず副作用があるため、「長期間飲み続けるのが怖い」、「薬に依存してしまうのではないか」といった不安の声がよく聞かれます。また、「薬を飲んでいる自分は本来の自分ではない気がする」といった心理的な抵抗感を述べられる方もおられます。
このような不安は決して特別なものではなく、「なるべく薬なしで治したい」と考えることは自然な発想かもしれません。実際、うつ病の治療は休養・薬物療法・精神療法が3本柱であり、薬物療法だけが唯一の選択肢ではないからです[1]。
薬に頼らないうつ病治療とは?
「薬に絶対頼りたくない」と考えている方もおられるかもしれませんが、薬に頼らないことにこだわりすぎないことも大切です。私も多くのうつ病患者さんを診察してきましたが、薬を積極的に使ったほうがよいケースもあれば、薬に頼らなくても改善が期待できるケースもあります。
大事なのは、「できるだけ早く回復して元の生活を取り戻すこと」を目標にして、医師と病状にあわせた治療計画をたてていくことです。
まずは医師との相談が前提
まずは主治医に「薬をなるべく使わずに治療したい」という希望を率直に伝えましょう。そのうえで、薬に頼らなくても改善が期待できる状態にあるかどうかを医師に判断してもらうことが大切です。
既に薬物療法を受けておられる方は、自己判断で現在服用中の薬を中断したり減らしたりしないことが大事です。医師と一緒に、症状や生活状況に応じた段階的な治療計画を立てていきましょう。
非薬物療法の代表例3つ
1. 運動療法や生活習慣の見直し
運動療法は、軽度から中等度のうつ病の非薬物治療として注目されています。中でも、ウォーキング、ジョギング、ヨガ、筋力トレーニングなどが特に有効であることが最近の研究でも示されています[2]。体を動かすことが辛くない状況にあるのなら、運動療法を試してみてもよいでしょう。また、毎日の起床・就寝・食事などの生活リズムを整えることも、回復の基礎となります。
2. マインドフルネスの活用
マインドフルネスは、「今この瞬間の自分」に意識を向け、自身の考えや感情を評価せずにありのまま受け入れる心理的な技法のことです。ストレスの軽減や気分の安定に役立つとされ、うつ病の治療や再発予防にも有効とされています[3]。
3. 認知行動療法(CBT)
認知行動療法は、うつ病の治療法として世界的に高いエビデンスが示されている心理療法です。物事の捉え方や行動パターンを見直し、うつ症状の改善を目指します。京都大学などの研究グループによる報告では、重度のうつ病に対しても軽度のうつ病と同程度に効果があることが示されています[4]。こちらは、コロナ禍以降オンラインで気軽に始められるサービスもでてきています。
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治療のステップを知ろう
Step1|「薬なしで治したい」と相談することから始める
前述の通り、薬をなるべく使わずに治療したい旨を主治医に伝えましょう。そのうえで、医師と安全な治療計画を一緒に立てることが第一歩です。繰り返しになりますが、薬に頼らないこと自体を目的にしないことが大切です。
医師は、うつ病の重症度や過去の治療歴などを踏まえ、薬に頼らなくても改善が期待できる状態にあるかどうかを判断してくれます。既に薬を服用中の方に対しても、薬を減らすタイミングや非薬物療法への切り替え方について助言してくれるでしょう。
Step2|生活リズムの回復に着手する
うつ病からの回復には、規則正しい生活リズムの確立が不可欠です。朝決まった時間に起きて日光を浴びる、三食バランスよく摂る、十分な睡眠時間を確保するなどがあげられます。こうした基本的な生活習慣の安定が、心身のエネルギー回復につながります。
Step3|習慣化しやすい非薬物療法を少しずつ試していく
いきなり完璧を目指さず、できることから少しずつ始めましょう。たとえば、1日10分の散歩や、寝る前のストレッチなど、負担の少ない方法から取り入れます。認知行動療法やカウンセリングも、医療機関、オンラインなどで受けられる場合があります。どの方法をトライするかについては、主治医とよく相談するのがよいでしょう。
Step4|必要に応じて「一部だけ薬を使う」選択肢も検討する
うつ病の症状により日常生活に大きな支障が出ている場合は、薬を部分的に併用することも選択肢です。薬を使わないことにこだわりすぎず、状況に応じて柔軟に薬物療法を組み合わせることが、結果的に早い回復につながることもあります。
実際の改善事例
30代女性のAさんは、責任感の強い方で、業務過多と長時間労働によりうつ病を発症。主治医からは、当面休職し自宅療養するように伝えられました。薬物療法の提案もありましたが、長期の服薬に不安を感じ、主治医に相談したうえで生活リズムの改善から取り組むことに。
休養に徹したことで、睡眠や食事は1カ月ほどで十分とれるように。最初は「何もできない日々」が続きましたが、朝起きてカーテンを開ける、短い散歩をするなどの小さな行動を積み重ね、半年ほどで徐々に趣味への意欲や興味も戻っていきました。
日常生活も問題なく送れるようになり、職場復帰のスケジュールを上司と話しあうようにまで改善。この頃、「また元に戻ってしまったらどうしよう」と不安になる日もありましたが、オンラインで受けていた認知行動療法のお陰もあり、変に自分を責めたり、追い込んだりすることなく職場復帰までの道のりを歩めました。
薬を使わないからこそ注意すべきこと
焦って結果を求めないこと
うつ病からの回復は、よく三寒四温にたとえられます。冬から春へ季節が移ろう時期と同様に、調子に「波」があります。「今日は何もできなかった」と感じる日もあると思いますが、回復の過程で必ず経験することですので、焦らないことが大事です。
無理をしない
調子が良いと感じる日には、ついつい調子が悪かった時に出来なかった分を取り戻そうと頑張ってしまいがちです。調子が良い日でも、急に活動量を増やしすぎないことが回復への近道です。
自分だけで抱え込まない
うつ状態にある時は、どうしても視野が狭くなりがちです。家族や友人のサポートを受け、自治体の相談窓口やカウンセリングも積極的に利用しましょう。自分では思いつかなかった解決法が見つかり、心の負担を減らすことができるかもしれません。
医師との連携を続ける
薬を使わない選択をしても、状態が悪化した場合や自分だけで対処が難しいと感じたときは、必ず医師に相談しましょう。必要に応じて最低限のお薬を使うことも選択肢に入れておきましょう。
まとめ
うつ病の治療において「薬を使いたくない」という思いは、とても自然なものです。一方で、薬に頼らないことにこだわりすぎないことも大切です。大事なのは、「薬を使いたくない」という思いを医師と率直に共有しながら、自分に合った治療法を一緒に探していくことです。
うつ病の治療には、薬物療法以外にも生活リズムの見直しや運動療法、マインドフルネス、認知行動療法など、選択肢はいくつかあります。どんな治療法を選ぶ場合でも、「一人で抱え込まない」、「必要な時は医師に相談する」ことを忘れないようにしてください。焦らず、無理をせず、時には周囲の力も借りながら、少しずつ自分のペースで回復を目指しましょう。あなたの回復への道のりが、穏やかで確かなものとなることを心から願っています。
【 参考文献 】
(1) うつ病の治療と予後:ご存知ですか?うつ病|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
(2) Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials.BMJ. 2024 Feb 14:384:e075847. doi: 10.1136/bmj-2023-075847.
(3) Effectiveness and cost-effectiveness of mindfulness-based cognitive therapy compared with maintenance antidepressant treatment in the prevention of depressive relapse or recurrence (PREVENT): a randomised controlled trial – The Lancet.Volume 386, Issue 9988p63-73July 04, 2015
(4) 認知行動療法、深刻なうつにも効果 -重いうつにも投薬以外の治療選択肢を示唆- | 京都大学