世界的に効果が認められている認知行動療法。
対面で医師やカウンセラーと行う方法がメインですが、ノートを使い、セルフで実践することも可能です。
今回は、認知行動療法をノートで行うやり方を詳しく紹介します。ノートを活用した認知行動療法には対面と異なる注意点もあるので、このコラムを参考に実践してみてください。
臨床心理士/公認心理師
いけや さき
心理職として精神科病院や心療内科クリニック、児童発達支援事業所での勤務を経て、現在はフリーのカウンセラー、児童精神科の心理士として活動中。またマインドバディ株式会社をはじめとする複数の会社とライター契約し、心理学やメンタルヘルス、ライフスタイルに関するライター活動も行っている。
認知行動療法とは?ノートで実践するやり方を学ぶ前に
認知行動療法(CBT)はうつ病患者の治療のために誕生した心理療法です。
しかし、現在ではうつ病に限らず不安障害や強迫性障害など、精神障害を抱えている人やストレス対処法が知りたい人にも推奨される方法となりました。まずは認知行動療法について理解を深め、ノートで実践するための準備を整えましょう。
認知療法×行動療法で誕生した心理療法
認知行動療法は治療効果が世界的に認められている心理療法。
認知の歪みに注目した「認知療法」と、学習理論に基づき行動に注目した「行動療法」のいいところを合わせたものが認知行動療法です。
認知療法と行動療法は、それぞれメリットとデメリットがあると各方面から指摘を受けていましたが、以下のように共通するところもあります。
各共通点を活かし、「認知」と「行動」の両方に注目した心理療法が認知行動療法です。
4つの側面に注目してアプローチ
「認知」と「行動」に注目する認知行動療法ですが、加えて以下の4つの側面に注目します。
・認知(瞬間的に思う考え)
・感情(そのときの気分)
・身体(起きる身体の反応)
・行動(実際におこなったこと)
ストレスのかかる状況に遭遇した時の人の行動や思考は、1つの側面だけではわからない部分があります。
総合的に観察し、分析する認知行動療法は、心理療法を受ける側にとってもわかりやすい方法です。
ノートを活用した認知行動療法のやり方10選
認知行動療法はセルフでも実践できます。
しかし、頭のなかだけでは整理しきれないため、ノートに書き出して客観的に観察・分析することがおすすめです。
ここでは以下の10個のやり方を解説します。
②自分の気持ちに気づく
③ストレスになりやすい場面を記録する
④現在の課題・問題を整理する
⑤自分の身体反応や行動に気づく
⑥自分にとって「心地いい」を見つける
⑦自動思考やスキーマに気づく
⑧気持ちや解決法を探る
⑨あるがままを受け入れる
⑩書く瞑想「ジャーナリング」をする
10個のやり方のなかから、自分に合う認知行動療法を実践してみましょう。
やり方①日々の記録を取る(週間活動記録)
認知行動療法のなかで、特に行動面に注目する「週間活動記録」はノートでも実践できます。
やり方はとても簡単。以下のような記録を取ってみましょう。
・その日の気分(不安、悲しいなど)
・気分の数値化(10点満点で何点か)
・今日一日の出来事(活動した内容など)
記録する際は、次の3つの方法を試してみてください。
・日記のように1日を振り返って記録
・午前と午後に分けて記録
・1時間刻みなどで細かく記録
見本を知りたい人は、「週間活動記録表」と検索すると、ワークがダウンロードできるので活用してみてください。
やり方②自分の気持ちに気づく
自分がどんなときにどのような気持ちや気分になるのか記録してみましょう。
例:「上司に資料のミスがあったといわれて落ち込んだ」
気持ちを記録するときは、なるべく出来事と気持ちの数値を一緒に記録するのがおすすめ。
気持ちを1〜100%で数値化すると、同じ不安という感情でも50%に感じる状況と、80%と捉える出来事の存在が客観的にわかります。
やり方③ストレスになりやすい場面を記録する
自分の気持ちを言語化できる人も難しい人も、「ストレスだな」と思った場面を記録してみましょう。
人によってストレスを感じる場面は異なります。
たとえば、大きな声の人に萎縮する人もいれば、全く気にしない人もいるでしょう。前者はストレスを感じていますが、後者はあまり気にしていません。
自分がどういう出来事に対してストレスを感じるか記録しておくことは、自己理解にもつながります。
やり方④現在の課題・問題を整理する
「やり方②」「やり方③」を実践した上で、現在の課題や問題を整理するのがおすすめです。
自分がどんな出来事で、どんな考え方になりやすいか整理していきます。
ただし、「気分」と「思考」が混ざってしまう人も多くいるため、以下に「気分」と「思考」の違いをまとめました。
自分の課題の整理に役立ててみてくださいね。
意味 | 例 | |
---|---|---|
気分(感情) | 自然に湧き上がる感情や気持ち | 「悲しい」「つらい」「苦しい」「不安」「悔しい」「寂しい」「嬉しい」「楽しい」「好き」など |
思考(認知) | 知識や経験をもとに考えること | 「嫌われている」「また失敗した」「どうせダメだ」「きっと大丈夫」など |
やり方⑤自分の身体反応や行動に気づく
気分や考え方に注目することが苦手な人や、すでに整理し終えた人は身体反応や行動にも注目しましょう。
ストレスのかかる出来事が起きた際、身体の反応はどうなのか、どのように行動したのかを記録します。
例
出来事:上司に資料のミスがあったといわれた
身体反応:心臓がドキドキした
行動:ひたすら謝り続けた、ほかのことが手につかなくなった
やり方⑥自分にとって「心地いい」を見つける
ストレスに対処するには、調子のいい部分や心地のいいことに気づくことも重要。
自分がどんな状況なら穏やかに過ごせるのか考えてみましょう。
思い浮かばなければ、なにか実際に体験してみることがおすすめです。特に五感を使ってリラックスやリフレッシュできるものを生活に取り入れれば、ストレスがたまる前に解消できるようになりますよ。
五感を使うリラックスやリフレッシュ法を以下にまとめました。
聴覚:自然の音を聴く、音楽を聴く
視覚:芸術鑑賞、自然に触れる
触覚:マッサージ、生き物と触れ合う
味覚:旬のおいしいものを食べる
自分にとって心地よいものを生活習慣に入れてみてくださいね。
やり方⑦自動思考やスキーマに気づく
自分の気分や考え方を書いて整理して、思考のパターンを見つけていきましょう。
認知行動療法では、ストレスのかかる出来事に遭遇したとき瞬時に思い浮かぶ考え(認知)を「自動思考」といいます。
認知行動療法は自動思考のパターンに気づき、考え方を修正する心理療法ですが、人によって自動思考のベースは異なります。
自動思考のベースとなる過去の経験に基づいて培われた考えがスキーマ。慢性的なうつ病や深いレベルの苦しみを持つ人は、自動思考よりもさらに深いスキーマを修正して問題解決を図ります。
やり方⑧気持ちや解決法を探る(コラム法)
認知行動療法のなかで、比較的取り組みやすい方法が「コラム法(認知再構成法)」。
ネガティブな思考を、バランスの取れた適応思考に変えていく方法です。
コラム法は以下の7項目を書き出していきます。
②気分:そのときの気持ち
③自動思考:その瞬間に考えたこと
④根拠:自動思考を裏付ける事実
⑤反証:自動思考と反対の事実
⑥適応的思考:バランスのいい考え方
⑦気分の変化:適応思考を取り入れたあとの気分
ノートに書き出してもいいですが、ワークシートはpdfでダウンロードできるものもあるので、自分に合うやり方でやってみてくださいね。
やり方⑨あるがままを受け入れる(ACT)
ACTとは、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and Commitment Therapy)と呼ばれる心理療法。
心理療法のなかではまだ新しい方法で、新世代・第3の認知行動療法ともいわれています。
ACTと認知行動療法の違いは、思考や気分の扱い方。
認知行動療法は、思考や気分に注目し、適応的な思考を目指します。
一方、ACTは思考や気分を修正せずに、自分の人生を豊かにしていく方法を模索・行動していくことが目的。自分の思考や気分をありのまま受け入れるために、自分の価値観などを書き出してみましょう。
やり方⑩書く瞑想「ジャーナリング」をする
書く瞑想「ジャーナリング」とは、頭に思い浮かぶことをありのままノートに書く方法です。書く作業を通して、自己理解を深め、ストレス軽減を目指します。
効果的に実践したい人は、書き終えたものを定期的に見直すのがおすすめ。
見直すことは、自分を客観的に捉えるトレーニングにもなります。
5ステップで実践!ノートで認知行動療法のやり方
ノートで実践する認知行動療法の10種類のやり方をより実践的に行うために、以下の5ステップを紹介します。
②最近モヤっとした出来事を書く
③その瞬間に考えたことを書く
④どうしてそう思うのか書く
⑤何か解決策はないか考えて書く
5つのステップを参考に、ノートを使って認知行動療法を実践してみましょう。
ステップ①深呼吸する
まずは心を落ち着かせて、自分と対話する準備を整えます。
鼻から吸って、口からゆっくりと吐く深呼吸をしてみましょう。
ステップ②最近モヤっとした出来事を書く
落ち着いてきたら、最近モヤモヤした出来事を書きだします。
まずは事実と自分の気分や思考をわけることが、認知行動療法のポイントです。
ステップ③その瞬間に考えたことを書く
次に、出来事の際に浮かんだ考え(自動思考)を書きましょう。
ここでも気分と思考はできるだけ分けて考えてくださいね。
今回は気分の記録はステップに入れていませんが、分けたうえで記録するのはもちろんOKです。
ステップ④どうしてそう思うのか書く
なぜその自動思考となるのか、根拠や理由となることを書きだします。
ここは自分の現在の価値観や信念を整理するステップ。
価値観や信念を明らかにすることで、ストレスになりやすい自分の考え方を深堀りできるようになります。
ステップ⑤何か解決策はないか考えて書く
もし、今後似たような場面に遭遇したときのために解決策を考えます。
思い浮かばない場合は、大切な人が自分の状況だった場合にどうアドバイスするか考えてみましょう。また、実践できるかは一旦置いといてアイデアだけ書く気持ちを持つと、書きやすくなります。
ノートで認知行動療法を行うときの注意点
「ノートで認知行動療法を実践する=セルフで行う」という状況になります。
セルフで実践する際は、以下の点に注意してください。
・さまざまな出来事について、何度も継続して行う
・気分が悪くなったり、悪化の恐れがある場合は辞める
日々取り組むなかで少しずつ変化していくため、即効性を求める人には向いていないかもしれません。
やり方を間違えると調子を崩す恐れもあるため、必要に応じて専門家も頼りましょう。
認知行動療法のやり方が学べるおすすめの本2選
最後に認知行動療法のやり方を実践的に学べる本を2冊紹介します。
認知行動療法はセルフでも可能ですが、適切な方法や取り組み方を理解して実践する方が身につきやすいです。しかしながら、専門書は難しく感じる人も多いでしょう。
ここでは、はじめて認知行動療法を実践する人にもわかりやすい本を紹介します。
ワークブック形式となっているので、コピーしたり、ノートに書き出すなど、使いやすいやり方で実践してください。
おすすめ本①心がスッと軽くなる 認知行動療法ノート
ワークシートに書き込み式で取り組める本。
認知行動療法のワークのやり方だけではなく、呼吸法の紹介なども充実した1冊です。
おすすめ本②こころが晴れるノート:うつと不安の認知療法自習帳
こころが晴れるノート:うつと不安の認知療法自習帳(Amazon)
日本における認知行動療法の第一人者である大野裕先生の本。
セルフで取り組めるワークシートと、認知行動療法の考え方がわかりやすく書かれた本となっています。
ノートに気持ちを書いて自分で認知行動療法を実践してみよう
認知行動療法は、日常生活で習慣づけやすい考え方を学びながら、実践していく心理療法です。
世界的に効果が認められているだけでなく、今回紹介したような取り組みやすい方法が充実しています。本やアプリも数多く出ているので、自分1人で実践できる人もいるでしょう。
一方で、やり方を間違えたり、考え方の歪みが残ったままでは効果は出ません。より効果的に実践するためにも、マインドバディで専門家と一緒に認知行動療法に取り組んでみませんか?
マインドバディでは、認知行動療法に精通した臨床心理士・公認心理師のオンラインカウンセリングが受けられます。アプリと連動しているため、カウンセリングの時間外にも認知行動療法の学習コンテンツが充実!
ノートで認知行動療法をはじめるなら、専門家と一緒にできるマインドバディの無料体験を受けてみませんか?