うつ病患者の治療として有効な「認知行動療法」。
認知療法と行動療法がそれぞれ発展するなかで、この2つの効果的なアプローチを組み合わせた方法が認知行動療法です。
認知行動療法は薬物療法と同等の効果を得られることでも有名。
しかし、認知行動療法という言葉は知っていても、実際にどのようなやり方や流れで行うのか知らない人も多いでしょう。
今回は、うつ病患者に有効な認知行動療法のやり方や気になる疑問を臨床心理士が解説します。
臨床心理士/公認心理師
いけや さき
心理職として精神科病院や心療内科クリニック、児童発達支援事業所での勤務を経て、現在はフリーのカウンセラー、児童精神科の心理士として活動中。またマインドバディ株式会社をはじめとする複数の会社とライター契約し、心理学やメンタルヘルス、ライフスタイルに関するライター活動も行っている。
うつ病の基礎知識~認知行動療法のやり方の前に~
うつ病とは、精神症状と身体症状の出現により生活に支障をきたす精神疾患です。
まずはうつ病の症状や原因、うつ病患者に共通する考え方を理解しましょう。
うつ病の理解を深めることで、認知行動療法がどのような効果をもたらすのか、イメージしやすくなりますよ。
うつ病の症状
うつ病は精神症状と身体症状がみられる精神疾患。
多くの人は身体症状に気づきやすいため、心療内科クリニックよりも先に内科へ行く人も多いです。
まずは、以下にまとめた代表的な精神症状と身体症状をチェックしてみましょう。
▼精神症状
・気分が落ち込む
・やる気・意欲がなくなる
・不安になりやすい
・集中力が低下する
・口数が減る
・イライラしやすくなる
・今まで楽しめたことが楽しめなくなる
・喜ぶ・楽しむなどの感情表現が減る
・死にたいと考えるようになる
▼身体症状
・頭痛や肩こり、腰痛などが増える
・下痢や便秘になりやすい
・食欲不振もしくは過食になる
・眠れないもしくは過度に眠る
・めまいや耳鳴り、動悸が増える
・性欲減退、勃起不全
・生理不順
このような症状が2週間以上続いていること、さらにどのくらい当てはまるかで軽度、中等度、重度が決まります。
うつ病の原因
うつ病の原因は、はっきりとしたものは分かっていません。
しかし、以下のような発生しやすい要因(危険因子)はあります。
・遺伝
・環境の変化
・人間関係のトラブル
・身体疾患や薬の影響
・女性の場合はホルモンバランスの乱れ
私たちは日々生活していれば、少なからずストレスを感じたり、眠れなくなることもあるでしょう。
しかし、そのような気分や状態は原因の解消によって回復することが多いです。
一方でうつ病患者は、不安やネガティブな感情が生活に支障をきたしていると自覚するのが遅いことも。
誰にでもなる可能性のある精神疾患だからこそ、症状の理解だけでなく、認知行動療法の考え方を取り入れて生活しやすい環境を整えていきましょう。
うつ病の人に共通する考え方
うつ病の人に共通する考え方の1つが「認知の歪み」。
以下に、認知の歪み10項目を一覧にしました。
特にうつ病の人に多い7つには★をつけています。あります。
2.★過度の一般化
3.★選択的注目(心のフィルター)
4.★マイナス化思考
5.★結論の飛躍
6.★拡大解釈と過小評価
7.感情的決めつけ
8.すべき思考
9.レッテル貼り
10.★個人化
うつ病が深刻化しているときは、自分でもコントロールできないほど認知の歪みに陥りやすくなります。
うつ病治療におすすめの認知行動療法とは?
認知行動療法とは認知と行動に注目し、不安や落ち込みなど「認知の歪み」を修正する心理療法です。
認知行動療法では、ストレスに感じる出来事で瞬時に思い浮かぶ考えを修正していくことを「自動思考」といいます。
その自動思考を、状況や感情、考え方の修正をしていくことで適応的な思考に変えていき、生きやすくする方法が認知行動療法。
うつ病の治療に有効といわれ、症状の程度にもよりますが、薬物療法と併用するとより効果を発揮できますよ。
うつ病に有効な認知行動療法のやり方3選
認知行動療法では、基本的には面接を12~20回ほどに分けて行います。
1対1の個人で行うものがメインですが、なかには集団認知行動療法を行う場所もあるので、自分に合うところを選んでください。
ここでは以下の3つのやり方を解説します。
②コラム法×ホームワークの場合
③必要なプログラムを組み合わせる場合
やり方①一般的な認知行動療法の場合
1回30分間の面接を16~20回ほどかけて行うことが、一般的な認知行動療法のやり方です。
認知行動療法を受けていない時間も、認知の修正を行う力をつけられるよう基本的にはホームワークが出されます。
認知行動療法全体の流れを以下に6ステップでまとめました。
ステップ2.治療目的の設定、行動活性化
ステップ3.気分や感情、自動思考の識別・整理
ステップ4.自動思考の検証
ステップ5.スキーマの識別・整理
ステップ6.終結と再発予防
1つのステップを2~3回に分けて行うことで、じっくり自分の思考や感情に向き合っていきます。
やり方②コラム法×ホームワークを使う場合
認知行動療法にはさまざまな種類がありますが、コラム法とホームワークを合わせたやり方は定番です。
以下はコラム法のなかでもよく取り入れられているやり方「7つのコラム法」の項目です。
2.気分:そのときの気持ち
3.自動思考:その瞬間に考えたこと
4.根拠:自動思考を裏付ける事実
5.反証:自動思考と反対の事実
6.適応的思考:バランスのいい考え方
7.気分の変化:適応思考を取り入れたあとの気分
このほか1~3項目までに取り組む方法は「3つのコラム法」、1~5項目までに取り組む方法は「5つのコラム法」などもあります。
一方、ホームワークでは「週間活動記録表」を用いた行動活性化や、コラム法で話し合った内容を活かした宿題を実施。
週間活動記録表を用いた行動活性化は、毎日の気分や行動を記録し、客観的に自分の認知と行動を観察します。
その観察した記録を、毎回の面接の最初に確認するやり方を取り入れている専門家が多いです。
やり方③必要なプログラムを組み合わせる場合
認知行動療法にはコラム法以外にいくつかの方法があります。
たとえば、代表的な方法は以下の4つです。
・エクスポージャー法
・マインドフルネス
・問題解決技法
・スキーマ療法
マインドバディでは、たとえば以下の4ステップで12~16回ほど認知行動療法を行うことがあります。
ステップ1.コラム法(認知再構成法)
ステップ2.エクスポージャー法
ステップ3.マインドフルネス
ステップ4.再発予防
マインドバディなら、認知行動療法の一般的な方法をオンラインで受けられるので、ご自宅や落ち着いて過ごせる場所で新しい考え方や気づきを得られるでしょう。
うつ病患者が気になる認知行動療法に関する疑問5選
うつ病治療に有効な認知行動療法ですが、実際に受けようと思うと不安や疑問に感じることも多いですよね。
ここではよくある質問の代表例を以下5つ解説します。
②認知行動療法はどのような人に向いていない?
③認知行動療法の効果は?
④薬物療法も受けないとだめ?
⑤どこで認知行動療法は受けられるの?
疑問①認知行動療法を自分でやる方法は?
うつ病が軽度の人や抑うつ状態の方は、セルフで行う次の3つの方法があります。
・本を購入して実践する
・ネットでワークをダウンロードして実践する
・アプリで実践する
認知行動療法はセルフでできるやり方もありますが、できれば最初のうちだけでも専門家に頼ることをおすすめします。
疑問②認知行動療法はどのような人に向いていない?
認知行動療法は多くの人に効果的な心理療法ですが、以下のように向いていない人もいます。
・過去の経験に向き合うのがつらい
・家庭や職場など安全な環境が整っていない
・受け身で治療者に任せたい気持ちがある
・抑うつ症状の程度が強い
しかし、薬物療法と併用し医師の許可が得られれば、上記に当てはまる人も認知行動療法を受けられる可能性はあります。
受けてみたいという気持ちがあるなら、まずは医師に相談してみましょう。
疑問③認知行動療法の効果は?
認知行動療法は、心理療法のなかでも世界的に効果が認められている方法です。
さまざまなやり方がありますが、本人の症状にあっていればネガティブ感情やストレスを軽減させる効果が期待できますよ。
考え方が柔軟になり、認知の歪みや偏りが少なくなって、今までと同じ状況に出会ったとしても対処できる方法が増えていきます。
うつ病や不安障害などの治療として効果があるだけでなく、再発予防の効果も期待できますよ。
疑問④薬物療法も受けないとだめ?
精神症状と身体症状の程度にもよりますが、薬物療法と併用するとさらなる効果が期待できます。
薬物療法の役割は、精神症状と身体症状の緩和・改善と、症状が安定してきたときの再発予防。
一方で、薬物療法のみの場合は症状は緩和・改善しますが、いざストレスを感じる状況に出会ったときにネガティブな自動思考となることも。
個人差はありますが、できるだけ今よりも生きやすくなりたい人は、薬物療法と認知行動療法の併用がおすすめです。
疑問⑤どこで認知行動療法は受けられるの?
認知行動療法は以下の場所で受けられます。
・カウンセリングルーム、私設の相談室
・オンラインサービス
地域によって病院やクリニックの予約が取りにくかったり、心理士が在籍していなかったりすることもあるかもしれません。
そういうときは、オンラインサービスがおすすめ。
たとえばマインドバディは、認知行動療法に特化したオンラインカウンセリングとアプリを用いるサービスです。
オンラインであれば、ご自宅や落ち着ける場所で認知行動療法を受けられますよ。
うつ病の人は認知行動療法のやり方3つのなかで自分に合うものを選ぼう!
うつ病は、気分の落ち込みや意欲低下、食欲不振、睡眠障害など精神症状と身体症状の現れる精神疾患です。
認知と行動の両方に注目する認知行動療法は、うつ病の改善に有効な方法。ストレスを感じる状況で「どのように考え」「どう行動すれば」いいのか考えていくことで症状を軽減させます。
認知行動療法のやり方に興味があるけど、近くで受けられる場所がない人や自宅で認知行動療法を受けたい人はぜひマインドバディもご活用くださいね。